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東京都荒川区荒川5-15-7 TEL:03-3806-6175 18:00-23:00/火休 予算:4000~6000円 予約可 |
*2009年1月29日をもって立ち退きのため閉店。良い移転場所が見つかれば営業再開するとのこと。
誰がこんなところに最高の焼肉があると思っただろうか。
京成線新三河島駅。駅前でも人影まばらなこの街の、ガード下にぽつんと佇む一軒の小さな焼肉屋。うら寂しいその店構えは、一般常識を持ち合わせた人ならばまず飛び込みで入るような事はしないだろうと思わせる。勇気を出して入ってみると、店内は座敷3席テーブル2席ほどの小ささで決して綺麗とはいえない。切り盛りするのは70前後の老夫婦。先客はラフな格好の地元客が数組。壁の短冊型メニューはありふれた品揃えを示す。テーブル上には小さなガスコンロ。ここまでは期待させるものは何1つない。しかし、ひとたび肉が運ばれてくると状況は一変する。
この店の一押しはタン塩。まず見た目からして常識外。1枚1枚が分厚いのに加え、丸ではなく、かまぼこのような形なのにも驚く。しかも生肉なので、でろりとしたその佇まいはどこかなまめかしくすらある。薄くて丸くて凍っているのがタン塩だと思っている方にはかなり違和感があるはず。そのタンが皿いっぱいに敷き詰められた様は圧巻の一言だ。
焼き方にはちょっとコツがいる。おばちゃんがセットしてくれた「極弱火」のまま、ガスコンロの火の真上にあたる場所に肉を乗せて気長に焼こう。ウェルダンに焼くつもりで、とにかく気長に。両面がきつね色になるまで焼いたらレモンを少したらして口へ放り込む。まずは前歯で味わって欲しい。上手く焼けていれば「サクサクっ」という心地よい食感があるはず。続いて奥歯で噛みしめると、「じゅわ~っ」とあふれ出た肉汁が歯茎にまとわりつく。いままでのタン塩では経験したことのない官能にひたれること間違いなしだ。この奇跡的な味わいが一人前わずか1100円で味わえるのである。
塩ハラミも秀逸な一品だ。こちらもやや厚めのカットで噛み応えがあり、肉を食らうワイルドな快感が十二分に味わえる。塩胡椒だけのシンプルな味付けが肉質への自信を表している。都心の高級店なら2000円はくだらないと思われる質のハラミが、こちらもわずか1100円。こんな焼肉があるのならば、今まで食べていた焼肉はなんだったのだろうと自問している自分に気づくだろう。
料理ではテグタンスープがお勧め。見た目は真っ赤でいかにも辛そうだが、野菜と肉がたっぷり入ったとろみスープは深い旨みと辛み、そして甘みが混沌と溶け合った濃厚な味に仕上がっている。はっきり言って韓国料理の「テグタン(鱈のスープ)」とは別物だが、そんなことはこの際どうだっていい。だってメチャクチャ美味いのだから。スープが残り1/2を切ったらライスを入れてよくかき混ぜて食べるべし。昇天間違いなしの一品だ。
繰り返すが、交通の便もあまり良くないし店もきれいとはいえない。接客も愛想のある方ではないし、よほどの物好き、いや肉好きでない限りお勧めは出来ない店だ。しかしその扉の向こうには極上の焼肉体験が待っている。我々はここを、焼肉を追い求め続けたものだけがたどりつく「焼肉終着駅」と呼んでいる。
寂しげな佇まい | もはや幻なのか?分厚いタン塩 | 肉は火の真上にセット |
分厚いミノ | 塩ハラミ1100円 | 魅惑のテグタンスープ |
<YAKINIQUESTよりヒトコト>
*米牛輸入禁止によるタン不足のあおりを受け、現在「上タン塩」はメニューから消えている。残念ながら復活の見通しは立っていないようだ。
・何と言っても厚切り&生の上タン塩とハラミの塩。好みで上カルビタレかハラミタレ。ミノ好きなら是非ここの「分厚く、焼いても丸まらないミノ」を。そして〆はテグタンスープで。
・肉のオーダーはなるべく一回でまとめよう。
・近くに100円パーキングもあるが、電車で訪れるとより一層の風情を味わえる。