焼肉というジャンルを飛び越えた珠玉の「おまかせ」
ゆうじ(東京・渋谷)
TEL:03-3464-6448
19:00-23:30(土18:30-23:30)/日祝休
予算:3000〜5000円 *おまかせは8000円〜12000円程度
予約不可 (開店直後および20:00からの外席のみ可)
ページ下段にある記事はこの店をはじめて訪れたときに書いたものだ。今読み返しても、これはこれでゆうじの一面を表しているとは思う。しかしあれから数年、幾度となく足を運んだ末に確信した事がある。ゆうじの真の価値は「おまかせ」コースにある、という事だ。
「おまかせ」を下支えしているのは、一皿一皿の完成度の高さである。肉ひとつひとつの鮮度や適切な下処理はもちろんだが、部位ごとの特徴を最大限発揮させるためのカッティングの工夫や味付けの追求によって生まれるクオリティの高さ。いったい店主はどれだけの時間肉と対話し、焼肉というものについての探究を積み重ねてきたのか。そんな想いが頭をよぎる。
加えて驚くべきはその組み立ての妙だ。さまざまな料理のエッセンスを詰め込み、更には季節感をも取り入れた自由な発想によって構成されたコースには、ホルモンを上手に使った小鉢や煮込みなどをはじめ、時にはすき焼きやしゃぶしゃぶ、あるいはステーキといったものから炊き込みご飯までも登場し、何度訪れても決して飽きさせる事がない。もはや「ホルモン焼き」や「焼肉」というジャンルを飛び越え、「ゆうじの肉料理」としか表現しようのないものとなっている。それでいて軸足はどっしりと七輪の上に据え置き、食後には焼肉らしい満足感を感じさせてくれるのは流石の一言である。
ただし難点はある。狭いキッチンの中、ほぼ店主ひとりの手で調理するスタイルゆえ待ち時間は非常に長い。しかも店内は煙く狭く、長時間くつろげる環境とは決していい難いので、万人にお勧めは到底できない。おそらくはこの環境すら焼肉の本質を突き詰めた店主が導きだしたひとつの結論なのだろう。この店の流儀を理解した上で挑めばこそ真の感動が得られるのだ。
かつては常連のみが頼めるものだと聞いたが、最近ではいちげんでも予算を伝えればおまかせを見繕ってくれるという。最初はもしかしたら、当たり障りのない盛り合わせ的なものになるかもしれない。しかしそれは、店主がまだ貴方の好みを把握していないからであり、同様に貴方自身もこの店について良く知らない状態だから、なのだろう。貴方がゆうじを訪れる回数を重ねるほどに、その内容は深く幅広くなり、多彩な顔を見せてくれるはずだ。
店主はまだお若く情熱とエネルギーに満ちあふれている。彼の焼肉探究はまだまだ終わらないだろう。その変化と行く先をリアルタイムで体験しながらあと数十年を過ごせる幸せを、この時代に生きる肉好きとしてはしっかりと噛み締めたいと思っている。
ハラミすじおでんも絶妙な味
完璧な焼き加減のステーキ
美味な正肉も供される
煙の向こうのご主人
鍋料理の種類も豊富
時に焼き手の力量を試される肉も
<YAKINIQUESTよりヒトコト>
・ご主人と親しくなったら、好みの味などを伝えるべし。客の意見を取り入れ創意工夫をされる店主ゆえ、お店と客とが一体となって新たな味が生み出される瞬間に立ち会えるかもしれない。
*以下は2005年にアップした記事
若者の街・渋谷。センター街の喧噪を抜けて東急ハンズに向かう。ここまでは誰もが知る渋谷の風景だ。しかしそこから徒歩で数十秒後、この店が視界に入った瞬間、あなたは「渋谷にこんな店があったのか!」と思わず声に出してしまうに違いない。渋谷にはおよそ似つかわしくない、オンボロとしか表現できない店。ここが、東京でホルモン焼といえば真っ先に名が出るほどの有名店「ゆうじ」だ。
驚かされるのは外観だけではない。店内を覗くと、極端に狭く、天井の低い空間に10数名が肩を寄あって座っているのが見える。いや、もとい。本当はその狭い店内すら見渡せないほど異常に煙いのだ。一方店外では漏れてくる煙の匂いをかぎながら、毎晩大勢の人が順番待ちの列を作っているのである。
しかし一口食べればその行列の理由も分かるだろう。肉が新鮮なのはもちろんだが、それに加えてきちんと仕事がなされた美味しさがあるのだ。きっと店主はそれぞれの部位の特性に合わせたカットや味付けなどを研究しているのだろう。美味かったのはまず、関東では珍しく脂をしっかりと残した「ホルモン」。新鮮で真っ白な脂はまるで綿ぼうしのように見える。しっかり焼いてから口に入れると、とろけるようなジューシーさが味わえる。ちなみに店内の異常な煙はこの大量の脂のせい。ホルモンを焼くときは煙がすごいからいっぺんに沢山焼かないようにと注意される程だ。それからミノとミノの間に脂身が入った「ミノサンド」が秀逸。焼き上がりを横から見ると角煮のように見えるこの部位は、口に入れると最初にコリコリしたミノらしい食感が味わえる。で、思い切って奥歯でぐっと噛むと、間から脂がジュワッと飛び出てくるのだ。火傷しそうになるのをハフハフとこらえつつ、コリコリ・ジュワッを反芻するのがたまらない。また、「コプチャン」や「ギアラ」をタレで食べるのもたまらない美味さだ。ちなみにこの2つに使うタレは違う味のものだった。こういう細かい部分に手を抜いていないのが素晴らしい。他にも独特な食感が印象的な「フワ(肺)」など、マニアックな部位も含めてホルモン系の魅力をとことん味わえる。
加えて、きっとこの店の雰囲気も味の重要なスパイスなのだろう。ここの非日常的なまでのボロさが異空間に迷い込んだかのような錯覚をおこさせているのかも知れない。例えればテーマパークに来たような昂揚感。その興奮が味を一段階高みにあげてくれているように感じた。そう、ここはホルモンを食べるという行為をイベントとして楽しめる店、「ホルモン焼テーマパーク」なのである。
イベント感を高める看板
純白の脂に覆われたホルモン
タレの味が絶妙なコプチャン
<YAKINIQUESTよりヒトコト>
・ホルモン系はどれもハズレがなく、美味しい。
・塩ならホルモン・ミノサンド、タレならギアラ・コプチャンあたりが特にお勧め。
・肉が出てくるのにかなり時間がかかるので、空腹過ぎる状態で行くと待つのがちょっと辛い。
・満席になると表にもテーブルを出してくれる。寒くない季節ならばむしろ外の方がいいかも。
*ゆうじには「おまかせコース」があり、常連だとオーダーできるらしい。素晴らしい内容なので、チャンスがあれば是非。おまかせの内容の一部はこちら。
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