襟裳岬に焼肉小屋がある理由

肉コラム
焼肉小屋短々(たんたん)、ファームイン守人(まぶりっと)

左:焼肉小屋短々(たんたん)、右:ファームイン守人(まぶりっと)

日高山脈の南端、襟裳岬(えりもみさき)。北海道の玄関口、新千歳空港から車で三時間半の場所にその小屋はあった。焼肉小屋短々(たんたん)、高橋ファームが運営する焼肉小屋だ。

元々、襟裳で短角牛が育てられるようになったのは漁獲が安定しないときの保険のためだったが、2002年に起きたBSE騒動のとき、高橋ファームの高橋祐之さんは、このままでは、えりも短角牛の畜産がダメになると思い、牧場の中にえりも短角牛を供するファームイン守人(まぶりっと)を作った。

襟裳岬は風が強く霧も濃い。丘の上にぽつんと宿泊施設もあるレストランを建てたとき、周りは不思議がっていたそうだ。だが、高橋さんはヨーロッパで生産者がサービスまでも提供するスタイルを見て、自ら生産し、食卓に提供することまでを一環して担うことに違和感はなく、寧ろ、安心と味を同時に届けることによって、差別化が図れると考えていた。そして翌年、ファームイン守人の隣に焼肉小屋短々を作った。今でいう六次産業の先鞭である。

えりも短角牛が育つ牧草地の草は太平洋のミネラルを含んでいる。そのミネラルは海藻などによって育まれる。しかし、数十年前までその海に海藻はなかった。襟裳の木が燃料や紙の原料として切り倒された結果、土地は砂漠化し、その砂が流れた先には海藻が育たなかったのである。そこに海藻が戻ったのは、その土地に黒松を植え、半世紀をかけて森林を取り戻した漁師たちがいたからなのだそうだ。その姿は2001年に「プロジェクトX 挑戦者たち えりも岬に春を呼べ」として映像化されている。

えりも短角牛を一口食べてみると「味が濃い」のが分かる。それは、襟裳の海・風・大地がつながっているからなのだと思う。襟裳岬を訪れたときは、ぜひ、焼肉小屋短々で、えりも短角牛を味わって欲しい。