昨今、肉界(というものがあるならばだが)はすっかり「熟成肉」ブームである。
ドライエイジング、ウェットエイジングなど、若干の違いこそあれ、
赤身の肉を数週間〜数ヶ月寝かせ旨味を凝縮し柔らかな食感を引き出す手法。
この「熟成肉」をウリにしたステーキハウスやレストランが急増中なのだ。
私もその内の何店かで食事させてもらったことがある。
赤身の旨味や香りが強調されつつ固すぎない歯ごたえに仕上がっており、
これはこれで肉好きならば一度は食べておきたい独特の魅力がある。
さて、そんな熟成肉を堪能するうち、ある考えがふと頭に浮かんだ。
「日本でこれだけ焼肉が広まったは、『和牛』がいたからこそではないか?」
…失礼。結論を急ぎ過ぎてかなり話が飛んでしまった。
つまりこういうことだ。
熟成させる肉としては赤身の割合が多いものの方が適している。
ところが赤身肉の美味さはある程度の塊で焼かないと引き出せない。
そして、塊肉を焼くのはプロの技とそれなりの設備が必要だ。
つまり、赤身部分が多い牛肉の産地であるアメリカなどでは、
肉を熟成させ、プロが塊で焼いて供するステーキ文化が発達した。
一方、和牛はもともとカラダに脂肪を蓄えやすい性質の牛といわれている。
適度な脂肪が霜降り状に入った肉は、小さく切っても旨味が味わえる。
小さく切られた肉は素人でも焼きやすい。故に焼肉に適している。
だからこそ、日本ではこれほどに焼肉が普及することになったのではないか。
…と、あらためて和牛の特異性、独自性に想いを馳せたのである。
そのうち、肉ファンの間で幻と崇められる”あの牛”を焼きたくなってきた。
そう、和牛種の元牛といわれる、天然記念物の「見島牛」である。
調べたところ「見島牛」を焼肉で食べられる店は全国に1つしかなさそうだ。
それは見島牛の産地付近、山口県は萩市にあるお店である。
ならばやむを得ない。東京からその地まで出向こうではないか。
その流れで、充分に開拓できていなかった近隣の大都市・広島と、
中国地方きっての焼肉タウンといわれる下関まで足を伸ばそう。
こうして今回の焼肉遠征は「広島・山口」と決まったのである。
(つづく)
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