ある夏の夕方、我々は広島の地に到着した。
夕刻とはいえ夏。日差しは高く、強い。
市の中心から少し離れた「肉料理 カオリちゃん」に着いた時には
あまりの暑さにやや食欲も減退しかけていた。
しかし、駆けつけでオーダーした肉が運ばれてきた瞬間、
我々の胃袋は瞬時にフル稼働のスタンバイ完了となった。
一目で分かる。肉のツヤ、輝きが違う。
肉刺、ついでタン刺を一口。
「おいおい、初っぱなからこれか?」
いきなりテンションはマックス状態に突入である。
焼き物も素晴らしい。
お勧めされた「ほっぺ」や「あごの下」などを次々に焼く。
事前におばちゃんから簡単な焼き方のレクチャー。
肉を美味しく食べて欲しいという心意気が伝わる。
おかげで、慣れない「コウネ」もミスせずに焼けた。
そう、ここ広島には「コウネ」と呼ばれる部位がある。
複数のお店の方の説明によればバラの一部らしい。
特徴は写真のように脂身が大きく入っていること。
そして大抵薄いスライスなのは歯応えがある肉だからだろう。
しかし口にすると脂身は意外とさらりと喉を通り過ぎ、
噛めば噛むほどゼラチン質の旨味が広がるのだ。
ちなみにこの肉、こちらの店では「コオネ」と表記されていた。
さらに「ヤサキ」という文字もあり、尋ねてみるとハツの事らしい。
どうやらメニュー表記にも独自の文化がありそうだ。
独自といえば、この店で我々を最も驚かせたのがこちら。
「白いセンマイ」である。
時々「白センマイ」というメニューを見かけるが、全くの別物だ。
一般的な「白センマイ」は、黒い膜のようなものを湯剥きし、
磨く事で綺麗な白色に仕上げている。
従って肉厚は薄く、肉自体の味は殆どしない。
コリコリとした食感のみを楽しむ一品だ。
しかしこの「白いセンマイ」は、もとから白いものなのだそうだ。
厚みがあり、みずみずしく輝くこの「白いセンマイ」からは、
噛めばジューシーな旨味すら感じる。
普通のセンマイとは全く別モノといってよいだろう。
聞けば、このセンマイは何十頭かに一頭の割合であるらしい。
それを優先的に仕入れられるのは、先々代から食肉市場で働いていた
こちらのマスターの人脈あればこそ、ということだった。
初日の一店目から大きな感動といくつもの課題に出会った。
今回の遠征はなかなか濃いものになりそうだという確信と
あまりの美味しさにやや食べ過ぎたお腹を抱えつつ、
我々は二店目の、お任せフルコースの焼肉店へ向かった。
(つづく)
>たかさん
ホントに素晴らしいセンマイですよね。肉好きにとっては「食べるために旅行する価値がある」ミシュラン三ツ星クラスの一品かと。
はじめてコメントします。
かつて広島に住んでいました。
カオリちゃんのセンマイは特別ですね!
懐かしく、嬉しく、そして食べたくなっちゃいました(笑)。