新宿のはずれに潜む孤高の辛味焼肉店
味楽亭(東京・新宿)
東京都新宿区歌舞伎町2-23-10TEL:03-3200-1919
16:00-25:30(土12:00-25:30、日祝12:00-23:30)/日月休
予算:5000〜7000円
予約可
新宿の区役所通りといえば、巨大歓楽街・歌舞伎町の中でもひときわ混沌としたエリアだ。その中心にある風林会館のほど近くに佇む一軒の老舗焼肉店。くたびれたファサードやそこに書かれた店名ロゴの味わい深い書体は、この地で夜な夜な繰り広げられる人生劇場を見つめてきた年月の長さを物語っているかのようだ。
店内に足を踏み入れると外観から受ける印象よりはずっときれいで居心地もよい。手前にテーブル席、奥には小上がりがある標準的な焼肉店の様だ。ここまではどこの街にもありそうな、古いという以外はこれといった特徴のない多くの焼肉屋のうちのひとつのように感じる。しかしそこは生き馬の目を抜くこの街で長年人気を得てきた店。実はこちらでは絶大なインパクトを持った独自の焼肉を提供しているのだ。
それはメニューを開けばすぐに判明する。上部に書かれた「辛さを選べます」の文字。「メチャ辛」を筆頭に5段階ほどに設定された味付け。この辛いタレこそがこちらのキラーアイテムなのである。
例え辛い味が好きな方でも、こちらの肉を初めて見たら驚くに違いない。コチュジャンベースのもみダレは鮮烈な赤い色。このタレが肉をコーティングするように、惜しげもなくたっぷりとからめられているのだ。一方つけダレはそれに反してスープのような薄味。肉が焼き上がったらあたかも肉を洗うようにこのつけダレにくぐらせるという、何ともユニークな食べ方なのだ。
味付けは濃い。ひたすら濃い。しかし、その濃さが嫌に感じないギリギリのバランスを見事に保っている。むしろ食べれば食べるほどその辛味と旨味の虜になってしまうはずだ。またこの味付けは白米との相性が実に抜群。一度ライスに突入したが最後、気づけば無心で米と肉を交互に口に放り込み続けている状態になっているだろう。
辛さの段階に関しては、最初は「ちょい辛」で様子を見るのがお勧め。問題なければ「メチャ辛」にもトライしてみて欲しい。なお、もみダレは辛さが上がるに従って唐辛子の量が増え、相対的に水気が減って粘度を増す。最終的にはタレというよりペーストと呼ぶべき代物となる。上級者になるとそのペーストだけを別注し、焼き上がった肉に更に絡めて食べるという技もある。
肉の種類は非常に絞り込まれており、基本的にはすべてこのタレでいただくスタイルだ。タンやロース、カルビは塩味も出来るというがこちらに来てそれを頼むのは野暮というもの。
(そう、タンからして「タレ」がデフォルトなのだ。通常塩で食べたら固くて味気ないタン先が辛いタレで見事に生まれ変わる様は驚きの一言だ)
ホルモン系もふくめ、是非最初から最後まで辛いタレ味で突っ走って欲しい。肉の違いと辛いタレとの掛け合わせがもたらす微妙な味の変化を楽しむのが、このマジカルでオリジナルなタレへの敬意の表し方だと勝手ながら解釈している。
今現在の焼肉界のトレンドからは外れているスタイルかもしれないが、店の個性の明確さとその突き詰め方には拍手を送りたい。西の玄風館(博多)と並び、孤高の辛味焼肉店として賞賛されるべき存在だ。
タンも辛ダレでいただこう
網上に赤い世界が広がる
「メチャ辛」のペースト
<YAKINIQUESTよりヒトコト>
・タン、分厚い上ミノなど。もちろん全て辛いタレで。〆のテグタンスープも美味い
・もみダレを追加オーダーして焼き上がり後に再び盛るという食べ方もあり