バラック小屋で趣向を凝らしたホルモンづくしを味わう
焼肉食堂ジェット(兵庫・芦屋)
兵庫県芦屋市西山町2-4TEL:0797-38-2939
18:00- & 20:15-(二回制)/月休(最終週のみ月火連休)
予算:4000-6000円
予約可
芦屋といえば高級住宅地の印象だが、そのイメージで訪れると拍子抜けしてしまうほど簡素な作りのお店だ。阪急芦屋川駅近くの小さな飲食店が数軒並ぶ一角に「焼肉食堂ジェット」はある。聞いたところでは阪神大震災時に建てられたバラック小屋をそのまま使用しているらしい。店名も手伝って、その外観からはどこかチカラの抜けた雰囲気が漂う。店内はL字カウンターのみの10席きり。程よくくたびれた内装は初訪の者でも落ち着かせてくれる。
メニューはおまかせコースだけというシンプルな設定(後からの追加は可能)。刺しものから焼き、〆の食事まですべてカウンター奥のマスターがひとりで調理してくれる。その手から生み出される焼肉は、ここまでの描写で想像するものとはかけ離れた、手の込んだバラエティ豊かな品々だ。
とにかくのっけから肉の部位ごとにあの手この手で楽しませてくれる。タンは厚切りと薄切りを粒山椒で、ゲタカルビはとろろで、シマチョウは梅肉で…など、どれもカットや味付けに小技が効いていて一皿ごとにうならされる仕上がりだ。全部で10種類ほどの肉はホルモンから正肉まで幅広く、ほぼ全てが異なる味で提供される。コース途中で挟まれるガスパチョや炊いたタンなどの料理ものも心憎い。というか全てが高い完成度なのだ。全体の流れの妙も含め、焼肉コースの一つの頂点というべき内容である。
焼きはすべて店主が行うスタイルで、客の目の前の七輪で焼き上げたものを一旦引き上げ、仕上げの味付けをしてから提供する。これらすべての仕事を何食わぬ顔で、ひょうひょうとやってのけるマスターが何よりすごい。複数の七輪を使って焼きながら、次の肉の準備、仕上げ、料理、さらには客とのおしゃべり…と矢継ぎ早にこなすのだが、独特の風貌も手伝ってか、そこに過度な緊張感やポリシーの押しつけなどは感じない。客はあくまでリラックスして楽しめば良いのだ。
この道20年というマスターは、今まで培ったネットワークで神戸牛のホルモンだけを仕入れているそうだ。淡々としているが仕入れや肉の焼き加減には絶対の自信を持っているのが端々から伝わってくる。「客に焼かせない」方式にしても、目の前で肉が焼けていく臨場感は残しつつ、「自分が焼いた方が絶対美味しい」というマスターの信念の表れだろう。
焼き物は日替わり。さらに追加注文は「お勧めが沢山ある」とのことだから引き出しはかなり多そうだ。〆のご飯ものも6種からのチョイスなので何度来ても楽しめるだろう。
そして一番の驚きはその価格。この内容で3800円*とは、なんというお値打ちだろうか。東京在住の身としては叶わぬ夢だが、是非ともホームグラウンドにして通いたいお店だ。
*価格は2012年訪問時
粒山椒でいただく厚切りと薄切りのタン
ゲタカルビととろろを合わせて
〆のひとつ、すだち冷麺
<YAKINIQUESTよりヒトコト>
・〆のご飯はカレー、すだち冷麺(そうめん)、稲庭うどん、牛丼、しぐれ煮のお茶漬け、卵かけご飯*2012年訪問時
・18:00〜/20:15〜の二回転制になった(2013/6月時点)